難聴者用音楽補聴
ヘッドホンシステム



「ライブホンときめき」 コンサート
NTT の社会貢献活動のひとつに、 「ライブホンときめき」コンサート というボランティア活動がある。こ れは、オーケストラの演奏会などへ 難聴者を招待し、生の音楽を楽しん でもらうことを目的とするもので、 1987 年春以来13 年間続けられてい る。ライブホンシステムは、このコ ンサートで使用することを目的に開 発された難聴者用の音楽補聴ヘッド ホンシステムだ。

「これまで、ニューヨーク2 回、 マレーシア1 回の海外活動を含め、 延べ3 ,000 名を超える難聴者を招待 しました。幸いにも、「自分の耳で 聴いているようで「生」という感じ がした」など、参加した多くの方の ご好評を得ています。最近では、 「美女と野獣」といったミュージカ ルや映画「もののけ姫」、若者に人 気の女性グループ「SPEED 」のコ ンサートなど、ジャンルを広げ、 様々な年齢層の方々に音楽や映画な どを楽しんで貰っています」と、 NTT サイバースペース研究所メデ ィア処理プロジェクトオーディオ情 報処理グループの三好正人主幹研究 員は語る。

骨伝導ヘッドホン
ライブホンシステムは、図1 のよ うに、センタ装置、ヘッドホンアン プ、骨導式ヘッドホンより構成され る。ステージ上の歌手や楽器などの 近くでクリアに収音された音楽は、 センタ装置によりステレオ信号へ集 約された後、受聴者それぞれが持つ アンプへ配信される。アンプでは、 受聴者ひとりひとりの聴力特性や好 みに合わせて、配信された音楽の音 質(音色)が調整される。このよう にして調整された音楽を、各受聴者 は、骨導式ヘッドホンで聴取する。

骨導式ヘッドホンはNTT が80 年 に発売した骨伝導式の福祉電話機 「シルバーホンひびき」の原理を応 用して開発された。このヘッドホン は、図2 のように、T 字型の接触子 を耳珠という耳穴前方の軟骨に押し 当てて使用する。耳珠が接触子によ って強く揺すられることにより音波 が発生する。発生した音波は、外耳 道、鼓膜、耳小骨を経て内耳(蝸牛) へと伝わる(図2 A)。また、耳珠 の振動から発生する音楽情報(主に リズム感)は、耳小骨や頭骨を伝わ り、直接内耳へ届く(図2 @)。こ のように、骨導式ヘッドホンは、十 分な音量と振動によるリズム感とで 音楽を楽しめる。

難聴者にやさしい音楽補聴
一口に難聴者といっても、障害の 原因や聴こえにくくなった時期など により、聴力特性は千差万別だ。ま た、生活環境や年齢、音楽への関心 度などにより「音の好み」も違って くる。このため、受聴者ひとりひと りの聴力特性や好みに合わせた音質 調整が必要となる。この調整を行う のがヘッドホンアンプに内蔵された フィッティング機能だ。各受聴者に、 アンプにリセットされている25 種類 の音色から、最も聴きやすいものを 選んでもらう仕組みとなっている。

また、センタ装置では専門のエン ジニアが、コンサートの間常時音量 を監視し、小さな音を適度に増幅し たり、逆に大きすぎる音を減衰させ たりすることにより、リアルタイム で難聴者の聴きやすい音量へ調整す る。ライブホンシステムの最も大き な特長は、このように、音質や音量 の調整などに関して難聴者にやさし い構成となっている点にある。

ライブホンシステムは、87 年の 1 号機完成後、医師や補聴器技術者 などの協力を得て改良を行ってお り、現在のものは4 号機にあたる。 この4 号機は、97 年度の「医師・ 福祉機器部門」で、グッドデザイン 金賞を受賞している。デザインはも ちろんだが、上に紹介したいつかの 高度技術を元に、難聴者にやさしい 機器の実現を目指した点も評価され たのだろう。

現在、日本で障害者認定を受けた 難聴者は約36 万人。更に、老人性 難聴や、軽度難聴を含めると、難聴 者の数は全国で600 万人とも言われ ている。今後も高齢化が進むことを 考えれば、その数はますます増えて いくことが予想される。多小耳が遠 くなっても、コンサートやミュージ カルを楽しむことができれば、老後 の生活もより豊かなものになること だろう。

「ライブホンシステムの更なる開 発を通して高齢者や障害者と共に豊 かに暮らしていけるようなバリアフ リー社会の実現に寄与したいとと考 えています」(三好主幹研究員)